データだけでは測れない。楽天市場で活用されている「UXリサーチ」とは?【楽天市場UI開発の現場 #2】

データだけでは測れない。楽天市場で活用されている「UXリサーチ」とは?【楽天市場UI開発の現場 #2】

こんにちは。市場編成部です。

前回の記事では「送料込み価格表示プロジェクト」を通じて、ABテストやユーザビリティテストなど、楽天市場の開発現場でのUI/UX決定プロセスをご紹介しました。

今回は「UXリサーチ」にフォーカスし、市場編成部で楽天市場のUI/UXを担う「UXデザイングループ」が、ユーザー体験向上のためにリサーチをどう活用しているのか、導入の経緯とあわせてご紹介したいと思います。

▼楽天市場の開発プロジェクトでUI/UXを担当するUXデザイングループ。
左から Teppei、Otae、Ackey、Natsu

集合写真


1.楽天市場の開発体制と、UXデザイングループの役割

はじめに、今回の話の主体である市場編成部「UXデザイングループ」の組織的な役割についてお話します。

楽天市場の開発現場では、プロダクトチームが機能別に存在しており、各プロダクトチームは、戦略やマーケティングを担当する「事業部」、実装・開発を担う「開発部」、そして楽天市場のUI/UX担当としてデザインを作成する「編成部」といった、異なる部署から集まったメンバーで構成されています。

この「編成部」の位置にいるのが、UXデザイングループです。現在約15名のUXディレクターが「商品ページ」、「検索結果ページ」、「お買い物かご」、「購入履歴」等、EC機能のコアと言えるプロダクトのUIを作成しており、UX向上を目指しています。


2.UXリサーチが普及した背景

楽天グループはもともと全社的にデータ活用に積極的な会社です。楽天市場のUI開発現場でも、以前からABテストやアクセス分析など、リアルなユーザーの反応をデータで確認しながらサービス改善を続けていました。

ただ、アクセスや購買データ自体からは「なぜ途中でサイトを離脱したのか」というような行動の理由までは見えてきません。ABテストを実施して、勝ち負けが分かっても、以前はその理由となるユーザー心理が十分把握できていませんでした。

そんな中、10年ほど前から全社的な活動としてUXリサーチ実施環境の整備やNPS®︎(Net Promoter Score)の導入が始まり、ユーザーの声をサービスに生かす仕組みが広がってきました。UXデザイングループも、インタビューやアンケートなど様々な手法の調査を取り入れながら、ユーザーによりよい体験を提供すべく取り組み始めました。


3.よく行われているUXリサーチは?

現在の楽天市場サービス開発の現場で、どのようなUXリサーチが行われているのか、代表的なものをご紹介したいと思います。

①ユーザビリティテスト

最も頻繁に実施されているのが「ユーザビリティテスト」です。ユーザビリティテストとは、作成した画面UIの使い心地に問題ないか、実際のユーザーに操作してもらって評価する調査手法。ここで問題が見つかればUIを修正し、使い心地を改善します。前回の事例のように、複数作成した案を比較するときにも活用されます。

▼楽天グループのUXリサーチルームで行うユーザビリティテストの様子
https://corp.rakuten.co.jp/careers/topics/creative3/

②ユーザーインタビュー

1対1または座談会形式での対話を通じて、ニーズや行動の背景など、ターゲットユーザーそのものを明らかにするのが「ユーザーインタビュー」です。聞く内容は調査目的によって様々ですが、例えば、楽天市場のユーザーに、なぜ楽天市場を使っていただいているのかヒアリングしたり、検討中のアイデアについて意見を聞き、その理由を細かく聞いたりします。

③ユーザーアンケート

ユーザーアンケートでは、ページへの来訪目的や欲しい情報などについてアンケートをとり、ユーザーが求めるものが何かを明らかにしていきます。個別のプロジェクトで実施するアンケートもありますが、半年に一度など定期的に実施するものもあり、スコアの変化・トレンドを追うことで、すぐに現れづらいUX改善効果を中長期的に確認していくことができます。

▼楽天市場のトップページに設置しているアンケート(2022年8月時点)

楽天市場のトップページに設置しているアンケート

こういったUXリサーチの手法は、プロジェクトの規模や目的にあわせて必要なものを検討し、取り入れています。


4.UXリサーチを取り入れる3つのメリット

UXリサーチを取り入れることにより、ユーザーに提供するプロダクトの品質が上げられるのはもちろんですが、その他にもプロダクト開発現場にとっても良い効果が生まれていると考えています。

メリット① スムーズな意思決定

楽天市場のUIは、楽天市場独自のUIレギュレーションを元に作成され、開発・事業部含めプロダクトチームで確認・フィードバックを入れながらブラッシュアップし、最終決定します。ただ、UIは主観的な要素もあり意見が割れることが多いため、スッキリと決まらないことも。こういったときに、UXリサーチを通じてフィードバックを得ることで、より客観的な意思決定ができるようになりました。

こういったUXリサーチは、多くの場合はUXデザイングループのディレクターが必要なタイミングを見極めて実施しますが、最近は開発部や事業部からのリクエストで実施する機会も増えていて、意思決定のために重要なプロセスと認識されるようになってきています。

メリット② データ分析の精度向上

最近では、ABテストのデータ分析を補完するためにユーザビリティテストを実施し、判断材料として生かす機会も増えてきました。これがあると、ユーザー行動の解像度が上がり、より強い根拠をもって決断ができるのがメリットです。

メリット③ メンバーがユーザーに向き合う姿勢の強化

プロダクトに関わるメンバーは、普段、自身で担当プロダクトを使うことはあっても、他のユーザーが実際に操作する様子を見る機会はほとんどありません。ユーザビリティテストなどで、知らない人が画面を操作している様子を観察すると、見てほしい機能を全然見つけられなかったり、想定外の使い方をしていたりなど、驚くような発見がたくさんあります。

実査が終わったあと、実査の様子を見学していたメンバー同士で結果の認識合わせを行うミーティングを実施しますが、全員が実際のユーザー行動を思い出しながら議論ができるので、同じ方向を向いてプロダクト開発に取り組む雰囲気が以前より強く感じられるようになったと思います。


5.UXリサーチ導入へのハードルと工夫

しかし、上でご紹介したようなUXリサーチは、やろうと決めてから簡単に導入できたわけではありません。最初はUXリサーチの経験がないディレクターがほぼ全員、という状態から始まりました。そこからどのように導入に向けて取り組みを行ってきたかお伝えしたいと思います。

スキルアップを支援する「UXリサーチカタリスト」

UXデザイングループのディレクターは、ユーザビリティテストについてはインタビューも含めて自分で行うことが多く、またその他の種類のリサーチについても、ある程度の調査設計をするスキルが求められます。しかし、全く経験がない初心者だと最初の一歩を踏み出すのがとても難しく、いきなり調査設計やインタビューをやれと言われても何から手をつければ良いかわからない状態です。

そこで、「UXリサーチカタリスト」と呼ばれるメンバーをグループに立て、リサーチの推進・サポートを行える体制を作りました。UXリサーチカタリストは、自分のグループで実施されているUXリサーチを把握しており、必要に応じて相談に乗ったり、またグループに新しく加入したメンバーにリサーチの現場を体験する機会を提供しながらスキルアップのサポートをしています。

UXリサーチカタリストの主な役割

リサーチの勘所を掴むための100本ノック

UXリサーチが普及する以前は、組織文化的に「データ中心」でプロジェクトが動いていたため、「たった5人に聞いた結果を信用していいのか?」という定性調査に対する疑問の声があがることが多くありました。

定性調査は統計とは異なり、傾向を掴んだり課題を発見するためのものであるのですが、そういった使い所が十分に理解できていない状態で、初期の頃は知見が少なく、適切に活用できていないシーンもありました。

そこでとったのは「習うより慣れよ」というアプローチ。実際にやりながら経験値を高めていくべく、初めはリサーチの実施件数をグループのKPIにしました。半年で◯件以上、など100本ノックのように件数を増やすことを目指しながら導入事例を増やしていきました。導入事例が増えるとグループ全体の知見も増え、リサーチを入れたほうがいいプロジェクトの傾向や、適切な調査内容かなど、徐々にリサーチの質も高まってきました。


6.UXリサーチ活用に関する今後の展望

最後に、より良いプロダクトを作っていくために今後意識して取り組んでいきたいことについてお話できればと思います。

スピード感をもって、意味のあるリサーチを!

UXリサーチを行うこと自体は良いことなのですが、過去にはリサーチが終わる前に意思決定が終わってしまい、せっかく作ったレポートが使われなかったこともありました。UXリサーチは片手間でできるものでなく、調査設計から結果のレポートまでかなりの工数を使うものです。無駄な仕事にならないように、実施前にリサーチの目的と活用方法を明確にした上で、意思決定に使えるスピード感でUXリサーチを行いたいと考えています。

戦略策定・企画フェーズでリサーチを活用!

UIを作成した後に行うユーザビリティテストは積極的に行っていますが、戦略策定や企画フェーズなど、いわゆる上流工程ではまだ十分にUXリサーチが取り入れられておらず、まだまだこれから……!という状況です。ユーザーに価値のあるプロダクトを着実に届けていくため、事業部や開発部とも積極的に連携して、ニーズ調査などを取り入れていきたいと考えています。

社内外からフィードバックをもらって洗練させたい!

これまで試行錯誤しながらUXリサーチを取り入れてきて、一定の成果も出ていると感じていますが、引き続き、よりよいUXリサーチのあり方を追求し、洗練させていきたいと思っています。そのためには、私たちの取り組みや事例を社内外に発信していきながら、いろいろな視点でフィードバックをもらいたいと考えています。

集合写真

以上、市場編成部のUXデザイングループによるUXリサーチ推進に関して、これまでの試行錯誤や今後の展望などお届けしました。これからもよりよいサービスをユーザーに届けるべく、よりよい仕組みを考えながら全力で取り組んでいきたいと思っています。

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R-Hack では今後も「楽天市場UI開発の現場」シリーズをお届けしていきます。第 1 回の記事、「ユーザー起点のUI改善「送料込み価格表示プロジェクト」」も、ぜひご覧ください!

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